定期巡回コラムシリーズ:高浜将之が語る「定期巡回ってなに?」

高浜将之が語る「定期巡回ってなに?」

定期巡回サービスの始まり

定期巡回サービスは、新潟県長岡市の社会福祉法人の取り組みがモデルとなったと言われています。2000年代、全国的に施設(特養)の待機者が400~500人いるのが当たり前の状況でした。そんな中で、待機者の方たちにも特養と同じようなサービスを在宅で提供しようとしたことが、定期巡回の“事の始まり”だと言われています。

だからこそ、定期巡回は「施設モデル」が前提となります。にもかかわらず、なぜか施設モデルでスタートした事業に、在宅モデルの利用者さんばかり入ってきたので、現在、定期巡回サービスそのものに混乱が生じていると思います。

というのも、施設では入居者の主体性ではなく、施設の規則に沿ってサービスの提供が行われます。例えばお風呂は20分、それ以外のサービス時間に関しては基本見守りで、オムツ交換だったらオムツ交換してサッといなくなるみたいな形です。

定期巡回も施設と同じく24時間の見守りが可能なシステムのため、施設と同じ形でなければ運営が回りません。

一方で、定期巡回サービスがスタートした当初に参入したのは大手の訪問介護事業所ということもあり、事業所や介護士さんたちの考え方が在宅モデルでした。そのために、例えばオムツ交換し終わっても、オムツ交換だけではなく、何かをして帰っていくといった形が多くありました。

そうしたことから人手不足も相まって運営が回らず、大手の事業所は軒並み撤退し、定期巡回サービス自体が広がりにくい現状となっています。

ポイント①
定期巡回は、在宅モデルではなく施設モデル!

<てい談>
高浜将之
梅山真一郎:定期巡回サービス土屋 GMアシスタント
志賀和弥:定期巡回サービス土屋板橋 管理者

高浜将之

訪問介護の仕事をしてこられた介護士は、定期巡回の価値観や文化に慣れるまでに時間がかかったり苦戦したりすることが多いと思いますね。

大手の訪問介護事業所が撤退した理由もそこにあると思います。つまり、訪問介護のように決められた時間でサービスを行っている。例えば、食事介助を1時間枠でしているというような。

定期巡回は、時間を決めて仕事をする訪問介護とは違い、ケアが終わったら次のケアに移る施設と同じシステムだと思いますが、いかがですか?

梅山真一郎



そうですね。定期巡回の事業所には「なんとかして利用者に寄り添って長時間のケアをしたい」という、訪問介護出身の方たちが多いと感じます。定期巡回の運営は、そのようなサービスとは乖離がありますが、そこを上手く職員に伝えられないと不平不満につながってくると思います。

志賀和弥



定期巡回は、施設モデルの部分と訪問介護に酷似している部分が色々と混ざっている事業なので、事業理解が介護士にとって難しいと思います。その事業理解の難しさが、「もっとやってあげたい」という気持ちや、定期巡回のケアに対するモヤモヤを生んでしまっていると思います。

高浜将之が語る「定期巡回ってなに?」Part2

定期巡回サービスとは

定期巡回では、「利用者がいかに長く、在宅で過ごしていけるか」というのが、サービス上の一つのテーマだと思います。つまり「どう永続化させるか」ということです。

だからこそ「今ここ」に時間を割くよりも、もう少し「利用者を長く支え続けるために、事業所としてどういうサービスを提供していくのか」、あるいはそのために「どういう社会資源を使うのか」ということを、試行錯誤しながら組み立てていくのが定期巡回の役割だと思います。

<定期巡回の基本的なサービス内容>

  • 定期巡回
  • 臨時対応
  • 臨時訪問
  • 訪問看護

定期巡回は、ご自宅に介護士や看護師が訪問して生活介護や身体介助を行うサービスを24時間提供しています。必要なケアを必要な時間だけ提供するというサービスです。

特徴は、「夜間帯でも24時間サポート可能」、「電話等、ご連絡をいただくことで日中でも夜間でも対応・訪問するなどイレギュラーな対応が可能」なところです。

施設介護と在宅介護の違いから見る定期巡回サービス

定期巡回は施設モデルでありながら在宅サービスでもあり、施設介護と在宅介護がミックスされたものとも言えます。

両者のどの部分を有するかについては、下図の赤字部分が定期巡回サービスとなります。

<施設介護と在宅介護の違い>

施設介護在宅介護
施設がルールを決めるクライアント個々人の習慣・文化を尊重する
24時間365日支援するため、クライアント一人一人に関わる時間の制約がない半面、限られた人員で全員に必要な支援を行う必要がある計画された時間に基づいて一人一人に支援する
決められた人員配置で多くの方を支援する時間内には一人一人のクライアントに集中して支援する
一定の時間内で70~80%の支援を行い、余裕を持つ
→緊急時対応等への余地
決められた時間内で100%の支援

ポイント①
定期巡回は、クライアントの意向にそってサービスを提供する!

施設介護では、施設がルールを決めます。起床や就寝、食事の時間など、すべて施設が決めるものですが、在宅介護ではそんなことはなく、クライアント個々人の自由に任せられています。定期巡回は、ルールの面では在宅介護と同じシステムになっています。

例えば、事業者が食事介助にクライアントのお宅に伺っても、食事ができていなかったり、食べる気がしなかったりなどもあります。そういう場合、施設介護では「今、食べてもらわなきゃ困ります」となりますが、定期巡回では他のケアをしたり、別のクライアント宅に行って戻ってくるなど、柔軟に対応できます。

このように、定期巡回は施設モデルと言いながらも、クライアントが在宅で暮らしている以上、一人ひとりに合った個別性の高い支援が可能なサービスです。

在宅介護の様々なルールが適応されない分、自由に支援ができることと、少ない人数で多くの人を支援するという施設介護のコスパの良さを併せ持ったのが、定期巡回サービスと言えます。

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ポイント②
定期巡回は、クライアントの生命の安全を最優先に、決められた人員配置でクライアント全員に必要な支援を行う!

施設介護は24時間365日、クライアントの支援を行います。決められた人員配置でクライアント全員に必要な支援を行う必要性があり、極力少ない人数で多くの人をサポートするのが施設です。クライアント一人一人に関わる時間に制約はありませんが、最優先となるのはクライアントの「生命の安全」です。

一方、在宅介護では一人一人に対して個別の支援を行います。社会福祉用語で言うと、施設はグループワーク(集団支援)、在宅はケースワーク(個別支援)で、その点が施設介護と在宅介護の最も大きな違いの一つです。

定期巡回は、常時複数名のクライアントの生活を指揮するという意味ではグループワークに該当し、目の前の一人のクライアントに集中して支援するという意味ではケースワークにも該当すると思います。

クライアントの「生命の安全を最優先」に、決められた人員配置でクライアント全員に必要な支援を行うのが定期巡回と言えるでしょう。

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ポイント③
定期巡回では一定の時間内で70~80%の支援を行い、緊急時対応等への余地を残す!
24時間365日対応できるように、事業所にスタッフが常駐しています。

施設介護では次の人が支援を待っている上に、何が起きるか分からないので、常に身体を空けようとするマインドが必要となります。

例えば、一人のクライアントの着替えの介助をしていても、ある程度の準備をすると「できるとこまで自分でやっておいてね」と、少しクライアントから離れて、フロア等の見回りをして戻って来ることもよくあります。

在宅介護ではその必要がないので、一人に対して100%の支援を行います。

定期巡回では施設と同じく次の人が待っていて、かつ緊急対応等もあるため、100%ではなく、一定の時間内で70~80%の余裕を持った支援を行います。事業所にもスタッフが常駐しています。そうすることで、24時間365日の対応が可能となります。

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ポイント④
定期巡回は、短時間で生活上必要なサービスを必要なだけ提供し、オンコールにも対応する!
その上で、「自己実現」等のプラスアルファのサービスを提供します。

施設介護は、個人の価値観や生活スケジュールよりも、まずはクライアントが「最低限生きていくための支援」をすることがベースにあります。食事や排せつなどですね。定期巡回もそれがベースにあるのは間違いないですが、その上でプラスアルファのサービスとして「自己実現」や「より元気になるための、希望に沿った支援」があります。

ただ、事業所に余力があればプラスアルファのサービスが可能になりますが、それに重きを置きすぎるとサービス自体が破綻します。

入浴や買い物同行といったサービスを定期巡回ですると、他のクライアント宅に回れなくなってしまうので、あくまでも短時間で生活上必要なサービスを必要なだけ提供し、オンコールにも対応する方が定期巡回サービスの強みを活かせると思います。

そういった緊急対応の余地も残しつつサービスを提供し、施設と同じく、余裕がある際には散歩に行ったりと、プラスアルファの支援を行うのが、定期巡回の良いあり方だと思います。

さいごに

私たちは今まで、目の前のご利用者の生活をいかに良くするか、自己実現にどう寄与するかなど、「介護の質」を上げることに多大な労力を割いてきました。

これは、それ自体すばらしいことだし、これからも必要なことだと思いますが、昨今の介護業界の人材不足、介護事業者の倒産数の増加を見ると、そもそも社会機能を維持することに一程度、我々ケアワーカーの認識もシフトチェンジする時代になってきたように思います。

つまり介護の質を70点から80点に上げるよりも、30~40点でもいいから一つでも多くのサービスを作って社会に広げるというような。というのも、担い手の不足で、サービスが必要であるにもかかわらず提供されない時代がもう目の前に来ているからです。

だからこそ今、定期巡回サービスを全国に広げるのは、介護のセーフティネットを作る意味でも重要だと考えています。

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