厚生労働省が2021年に発表した統計によると、日本人の死因の第一位はがんとなっています。
死亡者のうち26.5%の人、つまり4人に1人はがんが原因で命を落としており、私たちにとって身近な病気のひとつです。
がんの症状が進行し、余命や旅立ちについて考えた時に「自分らしく過ごすことができる自宅で最期を迎えたい」「延命治療は希望しないので、家族水入らずでお別れをしたい」と考える方の選択肢となるのが、在宅看取りです。
実際にがんを発症した場合、終末期を住み慣れた自宅で過ごし、在宅看取りのサービスを利用しながら旅立つ準備を進めることはできるのでしょうか。
今回はがんと在宅看取りについて詳しく解説していきます。
がんという病気
がんは、遺伝子が傷つくことによって生じた正常ではありえない細胞(腫瘍)によって、身体の各臓器に影響が出現する病気です。
正常な細胞は一定の回数の細胞分裂を終えると寿命を迎えますが、腫瘍は死なずに細胞分裂を続け、大きくなり続けます。
良性腫瘍の場合は身体に悪影響を及ぼすことはありませんが、悪性腫瘍、つまりがんの場合は周囲の組織を破壊しながら広がったり、血管などを介して転移していくことで、身体機能を阻害していきます。
がんは初期の段階で発見し、適切な治療を施すことによって治る可能性が高まりますが、発見の時期やがんが発生した場所によっては治療が難しいケースもあります。
がん細胞が筋肉層のみに確認されるステージⅠから徐々に症状は重くなり、他の臓器への転移も認められるステージⅣの段階に突入し、残された治療法がないと判断される段階になると「末期がん」と診断されます。
末期がんの容態
身体の複数の器官への転移が認められ、残された治療法がない、もしくはこれ以上のがん治療に耐えうる体力がクライアントに残されていないと判断されると、末期がんの診断がおります。
余命を宣告される方も多いですが、末期がんにより旅立ちの時が近づいている方は、高齢や認知症を理由に終末期の介護を受けている方よりも、意思疎通や生活動作などが比較的自立しているという傾向にあります。
実際にがんの在宅看取りを経験した株式会社土屋グループのアテンダントに聞いてみても、旅立ちのおおよそ2週間から10日前までは、自力での排泄や歩行などができていたというクライアントの方が多い印象です。
そのためがんのクライアントの在宅看取りをサポートするための介護保険サービスを提供する上では、クライアントや家族の希望に寄り添って、意思を尊重する必要があります。
介護保険制度を利用した在宅看取りサービス
末期がんと診断されたクライアントが自宅に戻ることを希望する場合は、介護保険制度を利用した在宅看取りのサービスを利用していくことになります。
介護保険制度の第1号被保険者は65歳以上の高齢者に限定されていますが、末期がんと診断された40歳以上のクライアントは第2号被保険者として介護保険制度の利用が可能となり、医療保険と併用することができます。
通常の介護申請では、自治体の窓口に書類を申請してから介護度が認定されるまでの間に1カ月から1カ月半程度の日数を要します。
しかしながら末期がんを理由として介護保険サービスを必要としているクライアントは急な容態変化や残されている時間の少なさが予想されますので、特別に申請を早めるための制度が整っているのです。
実際にがんの看取りを目的として介護保険制度の利用を希望する場合は、退院を決めた時点で介護保険制度の申請を行い、暫定ケアプランの作成を始めます。
また介護保険制度の申請日当日に介護度認定調査を行い、直近で開かれる認定審査会において速やかに要介護度の二次判定をするなど、迅速に要介護認定が行われるのが特徴です。
がんの在宅看取りを希望される場合は、訪問介護と訪問看護の併用、もしくは定期巡回・随時対応型訪問介護看護の利用が一般的となってきます。
がんの在宅看取り
がん症状の進行によって在宅看取りを希望されるクライアントの場合は、先ほどご紹介した通り身体の自由度や意思疎通に関して高齢や認知症を理由に在宅看取りを希望するクライアントとよりも、比較的問題なく行うことができるケースが多くなっています。
しかしながら意識の混濁や日常動作への影響が出現し始めると急激に症状が進行し、10日から2週間程度での旅立ちとなる可能性が高まります。
そのためクライアントの様子に関しての情報は、家族・訪問介護・訪問看護が密に連携して共有する必要があります。
特に食欲や排泄の回数と内容、自身の力でどの程度まで生活動作ができていたのかという情報は、クライアントの容態を確認し、必要な場合は医療機関やかかりつけ医への連絡も必要になる項目です。
家族も「話の辻褄が合わなくなってきた」「ぐったりとして、寝ている時間が増えた」という場合はすぐにアテンダントに相談しましょう。
がんの在宅看取りにおけるアテンダントの役割
がんの在宅看取りの場合は、高齢や認知症による旅立ちを控えている方と比較して、クライアント本人の意識がしっかりとしている傾向にあります。
そのためクライアントの心のケアや、家族と一緒に過ごす温かい時間によって心が満たされるよう、介護サービスとしてサポートしていく必要があります。
家族水入らずの時間を過ごしていただきながらも、家族自身の生活や仕事に過度な負担が生じることのないように、排泄や清拭といった身体介護を行うことが、主に訪問介護のアテンダントに求められる役割です。
また家族の心のケアを行い、緊急時の連絡体制を築いて協力するなど、クライアントだけでなく家族に寄り添った介護サービスの提供が必要になります。
がんを患うクライアントの在宅看取り。介護サービスを活用して穏やかに見送る意味
末期がんと診断された場合、40歳以上の方であれば介護保険サービスを医療保険と併用して利用し、在宅看取りを行うことができます。
特にがんを患っているクライアントは強い痛みを感じていますが、肉体的な痛みの緩和ケアは自宅においても問題なく提供されます。
しかしながら投薬だけでは管理しきれない心の痛みや不安は、家族と住み慣れた自宅で過ごすことが一番の安らぎとなります。
訪問介護では、がんを患っているクライアントと家族が、心の平穏を感じながら旅立ちの時を迎えることができるようにサポートしてまいります。